『切ない二人に感動しました…!』
とか言っている人はどこを読んでそう言っているのか。
800ページ以上という大作で、数日で一気に読ませていただきましたが・・・感想は一言。
不快です。
知人からの推薦もあり、アマゾンでのレビューの高さも相まってかなり期待してましたが…
ビックリしました、不快すぎて。
この作品を「最高傑作です!」なんて言っている人は、どこをどう見て最高傑作と思ったのか、小一時間問い詰めたい。
逆に「この作品は不快です」と言っている人には、美味しいパンケーキでも食べながら3時間ぐらいデートしたい。
いや、この2人…本当どういうこと?
「白夜行」感想
『東野圭吾さんの作品の中でおすすめは?』という質問に多くの人があげるのがこの白夜行でした。
いや、確かに800ページ超え、文庫本ですら思いっきり殴ったら致命傷を与えられそうな厚さでしたからね。
それでもスイスイ読めちゃうのは小説がおもしろいから、というのはわかります。
さらに日本だけでなく韓国でも映画化された、ということは世間に需要があったということですし、需要があったということは好きな人も多いのでしょう。
確かにスケールの大きさはすごいです。
1973年から1992年の【19年間】が詰まっている作品で、その中にかつての日本で起きた出来事やブームがちょいちょい登場します。
よって読み終わった後に「長いストーリーを走りきった(見届けた)」というような達成感のようなものが込み上げてきました。
小説としてはおもしろかった。それは私も同意なんですが…
『2人の生き方が悲しかった…』
『雪穂と亮司が背負った悲劇…』
『切なすぎる2人の関係性に涙…』
いやいや、ちょっと待て。
被害者の気持ち、考えてます?
「切ない」「悲しい」
そんな評価がついていることが本当にわからないです。
桐原亮司と西本雪穂。
彼らは自分たちのことを闇の中で歩いてきた、というように話ます。それは読者に「彼らは悲劇によって望まぬ闇へ」のように書かれています。
いや、それはわかります。幼少期の彼らは完全に被害者で、悲しく辛い思いしかありません。
雪穂に関しては完全な「悲劇」。もう胸が痛くなるほどの「悲劇」。
雪穂に群がっていた男たちには、本気で虫唾が走るほどの嫌悪感。
読んでる途中に本をぶん投げそうになりました。
そして、複雑な環境で育ち父親の最悪な部分を見てしまった亮司。
亮司が父親にしたことは、正直言って「あっぱれ」です。よくやったと褒めてやりたい。
子供の頃にこんな悲惨な経験をした2人にとって、その後の人生が普通の人のように明るい人生とはならない。
まるで白夜の中を歩くような…そんな気持ちは理解できます。
ただお前ら2人のせいで、白夜ならぬ「真っ黒な闇の底」に落とされた人の気持ち、考えたことあるんかい。
この本を読んで『切ない』『悲しい』と言っている人は、彼らのしたこと忘れちゃったの?
レイプ未遂をされた友人の江利子。
彼女はその後結婚し幸せになったかのように見えますが、心の傷は深く残っています。そりゃそうでしょうよ。
そして雪穂のことをいろいろ調べていた探偵の今枝。
彼の消息は結局最後まで出てきませんでしたが、推測するに亮司に殺されて埋められた、という線が強いでしょう。
しまいには雪穂の義理の娘となる中学生の美佳。
彼女は実際にレイプされてしまいます。
彼女のその後の心情は深く出てきていませんが、心の傷は確実に残っているはずです。いや、残らないはずがない。
これらの悪行をしでかした亮司と雪穂を見て、それでも2人を『悲しい』と言えるのか。
言えないだろ、本当に悲しいのは巻き込まれた人たちとその遺族だよ。
この他にもたくさんの不幸がありました。個人的に特に胸が痛くなったのは亮司と同棲した女性「典子」。
彼女はササガキ刑事がきた際、このように心情を語っていました。
しかしあの写真の人物が秋吉であることを話すと、秋吉にとって取り返しのつかない結果になるような気もした。もう会えないと覚悟していても、彼は彼女にとってこの世で最も大切な人間だった。
出典:東野圭吾「白夜行」より
男女の関係ですからね、騙されてたとしてもそれは自分の責任でもあるのですが・・・ただやはり利用されてしまった人を見ることは気持ちいい話ではないです。
この自己中心的とも取れる2人の行動。それが私にとってこの小説の1番の印象であり、それが【不快】でした。
すごく不幸な2人が、罪もない人々をさらに不幸な人を増やしていく話。
「切ない要素」も「感動の要素」もないですからね。
ストーリー自体に驚きがない理由
このストーリーの特徴である「亮二と雪穂の接点や心理描写がない」という点。
読んでいる側は「この2人に関連性はあるのか…?」→「ま、まさか…」という感じで「徐々に繋がっていく」感覚に感動した、という方もいたようです。
これは確かに面白かったと思います。ただこれがすごく微妙だと感じた理由は…
2人の何らかのつながりがあるであろう、というのはかなり序盤から分かることでしたよね?
雪穂が学生時代パッチワークで作った小物入れ。そこにはRKとイニシャルが入っており、雪穂は母親の「レイコ」のRと言っていました。そしてその後、亮司がRKとイニシャルの入った小物入れを持っています。
ここで大部分の人が『あ、これは雪穂からのプレゼントかもな?』と感じたはず。
するとここで「雪穂と亮司は何か繋がりがあるのかも?」とほんのり見えてきます。
ちなみにこれ、二章です。十三章あるうちの二章です。つまりすごく序盤なんです。
そしてその後色々な事件があり、雪穂と亮司の繋がりがある、という信憑性が徐々に濃くなっていきます。ただし明言はありません。
だから何かあっても『あーこれ亮司が裏で何かやってるんかな?』と強く感じてしまうんです。
だから結果的に亮司がやっていた、と言われても『でしょうね!』なんですね。
でも、先ほども言った通り、そのような描写は描かれてないし、雪穂や亮司から「あいつのために」というようなセリフもない。だから、私は途中から別の方向で考えて読んでたんです。
実は、亮司が雪穂のためを思っていろいろ裏で動いていたが「雪穂は何も知らなかった」というものです。
つまりパッチワークも偶然似たものを持っていた。雪穂の周りで起きたことも全て雪穂は全然関与していなかった。雪穂は桐原亮司なんて全く知らない人間だった、と。
もちろんそう考えるのは無理があるところもありますが、彼らの接点が描かれていない以上、この可能性は十分あるのではないか?と思ったわけです。
雪穂がすごく周りの人間から褒められるのもそう思った1つの理由でもあります。憧れの女性、完璧な女性。『そんな人いないだろう、こいつは本当は悪のような女なんだ!』と思わせるミスリードをしておきながら、実は雪穂自身その通り素晴らしい女性だった、という。
そのぐらいの「どんでん返し」を期待してしまいました。
今回は「驚き」よりも「ドラマ」として完成された作品でしたね。
読み終わって気づいたこと
読んでいる間は気づかなかったですが、読み終わった後に他の方の感想を見て気づいた箇所があります。
もしかしたら気づいていなかった方もいるかもしれないので一応ご紹介します。
友彦を助けた女性は?
亮司とともにカード偽装を行ったり、違法ソフトを売ったり、最終的にはパソコンショップを彼女と切り盛りした友人の「園村友彦」。
彼は主婦と高校生が体の関係になる、というバイトとして桐原に連れてこられましたが、その後そこで知り合った女性と関係を持ち続けます。
そしてある事故でその主婦が死んでしまい、友彦が容疑をかけられてしまいそうなピンチに陥ります。
しかしそれを亮司は助けます。自分の精液を使い友彦を容疑から外れるようにし、さらに彼女が死んでいる時間帯に別の女性を使ってアリバイを作る、と言ったものです。
この時の死んだ女性になりすましたのが「雪穂だった」ということ。
私は全く気づきませんでした。この時亮司は「英語弁論大会の関係者」として雪穂に連絡し、夜抜け出しなりすましたようです。
雪穂と亮司に体の関係は?
これも例の如く描写はありませんは、あったという説が濃厚そうです。
その根拠となりそうなのが、亮司が典子と同棲しているときのこと。亮司はかつて父親が雪穂に迫っているところを見たショックから「女性の膣内に射精できない」という体になってしまいます。
そして典子に対し「口と手」を使ってしてもらおうとしますが、そのとき亮司は典子の手を見て「小さいんだな」と言います。そして典子も「他の女性と比較された」と感じます。
この典子の考えが当たっていれば、亮司は誰かと比べている。それは雪穂ではないか、というものです。
この裏付けとして、雪穂がかつて結婚していた高宮誠との夜の生活でうまくいかなくなったとき、彼はこのように言っています。
セックスができないなら、せめて口や手を使って愛情を表現してほしかったが、雪穂は決してそうゆうことはしない女だった。
出典:東野圭吾「白夜行」より
雪穂はそもそもこの高宮誠という男性を好きではなかった、という描写がありました。このことから、雪穂にとってそうゆう愛情表現は本当に好きな人にしかやらない。そしてそれは亮司だったのではないか。
推測の域は超えられませんが、この考えは当たっているのではないか、と思います。
ドラマ版との違いは?
ドラマは見ていませんが、内容を見るに大きく違うようです。
最も大きいのは「ドラマ内では亮司と雪穂が会っているシーンが描かれていること」。
やはり亮司と雪穂の心理描写がない、ということや2人が会っているシーンがあるか無いかで全然違った印象になります。
よって「ドラマ+原作」または「ドラマのみ」を見た人と、「原作のみ」で見た人の中には感じ方がいろいろ違うのでは無いかと思います。
まとめ
世間の評価の通り、かなり引き込まれた作品でした。しかし「最高傑作か?」「死ぬまでに読んでおくべき本か?」と言われたらNOです。
俺はあの2人が許せないよ。
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