本を読んで2ページ目に『あ、これはあかん』ってなりましたね。
宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」を読んだ時になっちゃいました。
この「あかん」は「いきなりおもしろい」っていみだったんですけど、今まで小説を読んできた経験上ほとんどありません。このスピード感は。
開始2ページ目でこれですからね、成瀬あかりに完落ちです。完全に落ちた。移動教室の時、一緒に移動したい。
ということで小説「成瀬は天下を取りにいく」の中で成瀬あかりに落とされたシーン、書きます。
「成瀬は天下を取りにいく」感想
成瀬あかりの魅力にぶん殴られ、完全に心を落とされたシーンは5か所です。
紹介させてください。
「糊の割合が重要です」
2ページ目にして心をわしずかみにし、結局ラストまで握力が落ちなかった成瀬あかりのこのセリフ。
最初の1ページ目で成瀬あかりがどれほど人と違うか、しかしそれによって女子から無視されていたなど、普通の小説ならいくらでも濃くできる話をサラっと終わらせます。
そしてそんな成瀬あかりが言った「シャボン玉を極めようと思う」。
数日後にはローカル番組で「天才シャボン玉少女」として取り上げられる。その時に発したのが・・・
「糊の割合が重要です」
ここまで2ページです。本を開いてほぼ1分以内にはこの成瀬あかりってキャラクターが出来上がっている。このセリフによって出来上がっている。
これ、異常ですよ。
このスピード感で主人公のキャラクター性や魅力が頭に入ってくるのがまず異常。しかもそれを「糊の割合が重要です」という一言でやっている。どうかしてる。
整理すると…
2ページにしては濃いのか薄いのかよくわからないストーリーに、シャボン玉を極めるというこれまた意味の分からない展開。
しかし結果的にはテレビに取り上げられ、「糊の割合が重要です」とか言っちゃってる女の子。
なんだこれ。『動くと撃つぞ』って状況でもページめくっちゃうだろ。
「おはようございます」
琵琶湖岸に出ると、朝型の同志たちがウォーキングやジョギングをしているのが見える。成瀬は通り過ぎる人に、大きな声で「おはようございます」と声かけする。
引用:宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」新潮文庫
ここ読んだとき、正月が近いということもあってだと思うんですが・・・
お年玉あげたくなりました。
いとこの子供には3000円ぐらいしか渡しませんが、成瀬あかりには20000円渡してもいいと思いました。
よく考えてみてください。
女子高生が朝からジョギングしてるのは、まああり得るでしょう。
女子高生がすれ違った人に「おはようございます」とあいさつ、する人もいるかもしれません。
ただね、
女子高生が大きな声で「おはようございます」はない。
大きな声で「おはようございます」って。今日から初登校の小学校一年生ぐらいじゃないですか、大きな声で「おはようございます」っていうやつ。
死ぬ前に見る走馬灯
成瀬と島崎が夏祭りでゼゼカラとして漫才したシーン。
その漫才を見ていた成瀬の母と島崎の母を見て、成瀬あかりはこう思いました。
成瀬が観客の様子をうかがっていると、娘の代わりに緊張しているかのような母の顔が見えた。その隣では島崎の母が笑顔を見せている。約二百年後、死ぬ前に見る走馬灯にもこの景色が採用されるのではないかと思った。
引用:宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」新潮文庫
素敵すぎませんかね、その感性。
成瀬あかりは、自分が立っている場所から見える景色と人の表情を、素敵だと思ったんでしょうね。
じゃないと「走馬灯の景色」が思い浮かぶことなんてないですからね。
成瀬は坊主頭だった
いや、こんなん反則技ですよね。
武器はダメですよ、ってルールがあるのにそのルールブックで相手をぶん殴るぐらいの反則技です。こんなん笑いますよ。
成瀬あかりが中学から高校に上がり、新しいストーリーが始まるってときにこの一文。
読者は「成瀬あかりがどんなデビューをするのか」ってところに興味津々な訳です。
そこにこの「成瀬は坊主頭だった」の一言。
誰も防げないですよ、こんなん見えない死角からの飛び蹴りですよ。気絶しますよ。
実際にこのシーンで、クラスメートの大貫さん、通称ぬっきーも同じようなこと言ってます。
そんなワクワクした気持ちでいたところへ、坊主頭の成瀬から飛び蹴りを食らわされたようだ。
引用:宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」新潮文庫
ぬっきーもめちゃくちゃおもしろいですけどね。
「こんな時期でもできる挑戦がしたかったんだ」
成瀬あかりが中二の夏を西武百貨店に捧げた理由です。
ここにこの「成瀬は天下を取りにいく」のすべてが詰まってる感じがしますね。
いきなりですけど、みなさん。
何かをしようとするとき、どうしても「意味」を考えてしまいがちになりませんか?そして「意味のないこと」は排除しちゃっていませんか?
近年はどうしても「結局お金に結びつくのか?」に囚われてる気がします。なんでもコスパとかね。意味のないことに対して風当たりが強いように感じます。
そういう観点から行くと成瀬あかりのやってることは「意味」が無いように感じます。
毎日ローカルテレビに映るとか。シャボン玉を極めるとか。M-1に出場するとか。
でもそうじゃない。彼女の中にもちゃんと意味はある。でもその「意味」が凡人にはわかりにくい。
そして彼女の中でその意味は「挑戦」って言葉に置き換えられてます。彼女は何かに挑戦していたいんですよね。
これが彼女の最大の魅力でもある気がします。
一見すると成瀬あかりの「挑戦」にどんな意味があるかわかりませんし、何なら凡人が自分に置き換えたら、彼女の挑戦に意味なんてないのかもしれません。
でも読んでいると変わってきます。成瀬あかりの挑戦だから「挑戦の意味」を知りたくなっちゃうんですよね。
これ、彼女に惚れてる証拠です。
この好奇心が消えない限り、多分成瀬あかりのストーリーはずっと読んでいられる気がします。
そしてこれは自分に置き換えることもできます。
大切なのは「誰かにとって意味があるかどうか?」ではなく「自分にとって意味があるかどうか?」
これが本来生きていくうえで一番大事で、人生を一番楽しめる方法かもですね。
こんな大事なことを滋賀県の女子中学生に教えてもらうなんてね。
中学生なんてまだまだ子供ですよ。
俺なんて今年40歳ですよ?どういうことだよ。
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