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徹底考察『倒錯のロンド』がおもしろすぎたので解説と考察

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折原 一さんの『倒錯のロンド』を読んだのですが、かなり面白かったのでさらに深くハマってみたいと思います。

ということで考察です。

・『倒錯のロンド』読んだけどよくわからないところがあった
・自分の思っていたのと他の人のレビューが違う

という方は是非お読みください。

なお、個人的解釈も含まれています。著者の思惑と違うこともあるかもしれませんがご了承ください。

これ以降はネタバレを含みます。読んでいない人はぜひ読んでからまたお越しください。


『倒錯のロンド』各ポイントの解説

大まかなストーリーの流れ

0:白鳥翔(本人)が『幻の女』で第20回月間推理新人賞を受賞。

1:山本が『幻の女』を書く。城戸に清書を依頼するも、城戸が原稿を紛失。

2:永島が山本の『幻の女』を拾い、「白鳥翔」という名前で第21回月間推理新人賞へ応募。

3:山本はもう一度『幻の女』を書き、第21回月間推理新人賞へ応募。

4:新人賞が「白鳥翔」の『幻の女』と知った山本は「盗作された!」と思い、白鳥翔に嫌がらせを開始。

5:立花広美が何者かに殺されてしまい、白鳥翔が逮捕される。

6:山本は『倒錯のロンド』を盗作し書き始めるも、永島に奪われてしまう。

7:永島が『倒錯のロンド→盗作の進行』と名前を変えて月間推理新人賞へ応募。

8:山本の告発により永島が逮捕される。

9:釈放された白鳥が山本の『倒錯のロンド』を盗作しようとしたが、結局奪われ殺されてしまう。

10:山本が江戸川乱歩賞へ応募するも受賞ならず。

かなりややこしいですが、ストーリーの大まかな流れはこのような感じです。

登場人物は主に「山本」「永島」「白鳥」の3人。サブとして「城戸」「立花」「山本の母親」などが登場します。

トリック部分の解説

山本が『幻の女』を応募したのはいつの賞?

ここが物語のキーなのですが、山本が『幻の女』を応募したのは、

第21回月間推理新人賞

です。そして、白鳥翔(永島)が山本の『幻の女』を拾って応募したのも、

第21回月間推理新人賞

そして白鳥翔(本人)が『幻の女』を出したのが、

20回月間推理新人賞

つまり山本も永島も受賞できるわけがなかった、ということです。

山本は『幻の女がパクられた!』とか言っていましたが、パクったのは自分で、白鳥翔(本人)が第20回の新人賞を獲得していたんですね。

本の中で「山本安雄の手記」の前で【第20回月間推理新人賞の募集開始!】のようなページがありましたが、あれはミスリードな訳です。

なお、山本が田舎に帰ってから戻ってくる電車の中で、週刊誌の中に「白鳥翔が新人賞を受賞した」という記事を見て「盗作された!」と勘違いしますが…

ぼくは、しばし呆然となった。白鳥翔という男が『幻の女』という作品で月間推理新人賞を受賞したとあるではないか。偶然の一致としても話ができすぎていた。
引用:折原一『倒錯のロンド』

この頃まだ発表の三月号は出版されていないですし、仮に山本の勘違い通りに「第21回月間推理新人賞を白鳥翔が受賞していた」とした場合…

記事の内容にある「受賞がきっかけで知り合った女性と婚約」が『どんだけスピード結婚やねん』ということにもなります。

あの狂った小説を書いたのは誰なのか?

途中で出てきたあの狂った小説。

山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄山本安雄

山本安雄は気がふれている。社会の害虫だ。害虫は駆除しなければならない…

山本安雄を殺せ山本安雄を殺せ山本安雄を殺せ山本安雄を殺せ山本安雄を殺せ

山本安雄は死んだ山本安雄は死んだ山本安雄は死んだ山本安雄は死んだ
引用:折原一『倒錯のロンド』

あれを書いたのは白鳥翔(本人)です。

山本に嫌がらせを受けてノイローゼ状態になってしまったようです。

立花広美は「白鳥が盗作したかも」と疑いの気持ちが生まれてしまっていたため、ノイローゼ状態の白鳥翔(本人)を見てそれを信じてしまいました。

それにしてもあの狂い方は誰が見てもビビりますけどね。

白鳥翔を殺したのは「山本の母親」

無実だったと疑いが晴れ、マンションに戻ってきた白鳥翔。

マンションにあった山本の小説『倒錯のロンド』を盗作しようとし、手を加えていましたが、部屋に入ってきた何者かに殺されてしまいます。

椅子ごと倒れるとき、白鳥は部屋を出ようとする犯人の小さな後ろ姿を見た。その手には、彼の原稿が握られていた。

こと切れる直前、鍵は山本安雄から誰の手にわたったのだろうと考えていた。
引用:折原一『倒錯のロンド』

小さい姿とあり、作中で「体がそこまで大きくない」と示唆されてきた山本安雄だと思わせますが、これはミスリード。

ここで白鳥を殺したのは「山本の母親」でした。

立花広美を殺したのは誰?

白鳥のフィアンセとして登場したフリーライターの立花広美。作中で殺されてしまいます。

警察はその犯人「白鳥の偽物の永島」として逮捕します。

実際に永島自体も「自分が殺した」と思っていました。

しかし、立花広美にとどめを刺したのは白鳥翔(本人)

本文中にあったように、書かれた順序が実際と逆。部屋に駆け付けた際に、まだ生きていた立花を殺してしまいます。白鳥翔(本人)が首を絞めて殺害し、その後呆然と立ち尽くしていたわけです。

なので無実の罪で拘束されていると思われていましたが、あれは正当な逮捕だったのです。

「倒錯のロンド」の意味

この本のタイトルでもある「倒錯のロンド」。それぞれの意味を見てみると・・・

倒錯とう‐さく:反対になること。さかさになること。本能や感情などが、本来のものと正反対の形をとって現れること。

ロンド:輪舞曲(りんぶきょく)と呼ばれ、同じ旋律を何度も繰り返す特徴がある。

まず「盗作」と「倒錯」の読み方が同じ「とうさく」でかかっていますね。

そして倒錯に関しては【山本の正気と狂気】の部分が反対になったり、山本が【盗作された側⇒盗作していた側】に回ったりと反対になることが多かったことを示しています。

さらにロンドとは「何度も繰り返す」ので、登場人物の印象や見方がグルグル変わりまくる、というところからロンドという名がついたものと思われます。

エピローグの意味は?

倒錯のロンド 完成版』ではエピローグにて江戸川乱歩賞を受賞できなかったエピソードが書かれています。

これは倒錯のロンドの著者「折原一」さんの実体験と、小説の中の山本の結果をミックスさせたもの。

いきなり「山本じゃなくて折原一って誰ですか?」とびっくりした方も多いと思います。

小説の内容(フィクション)と実際の内容(ノンフィクション)を最後に組み合わせてきたすごい仕掛けでした。

もしかしたら、小説の内容もノンフィクションで、折原さんが実際に同じ事件に遭遇していた…って可能性もゼロじゃない、ってところがよりおもしろいところです。



『倒錯のロンド』考察

なぜ山本の母親は白鳥を殺したのか?

なぜここで母親が白鳥を殺したのかは正確には語られていません。しかし可能性としては2つ・・・

①山本安雄が殺してくれと頼んだ
②息子が精神崩壊した理由が白鳥だと思っていたので復讐した

①の山本が頼んだ説ですが、エピローグでは、母親は封筒についた血を「転んで手を切った」ととぼけていますし、山本も「殺してくれ」と頼んだ描写もありません。

ただこれは山本が精神を病んでしまった後なので、本当は山本が母親にお願いしていた可能性もあります。

そして覚えていない息子に対し、罪の意思を着せないように母親が気を使った可能性もあります。

②の復讐説ですが、犯人の永島は逮捕されているので母親が白鳥に対し恨みを持っているようには感じないのですが…

ただ暴行を受けたのが白鳥のマンションってことを知っていれば【息子に怪我をさせた男=マンションに住んでいる男】とつながり、復讐した可能性もあります。

個人的には②だと思っています。

白鳥を刺した時の手際の良さといい、ためらいの無さといい、自分の意思で行った感じが伝わってきました。

山本安雄はもともと気が変だったのか?

最後に。これは完全に個人的な考察になります。

最後に精神科医が刑事に『山本はもともと気が変だった』と言います。

山本安雄は本当にそんな「気が変なやべぇヤツ」だったのでしょうか。

確かに、小説家になって賞を取りたい、というプレッシャーにつぶされ、他の人の作品を写したにも関わらず「自分のものだ」と言ってしまうあたりは「やべぇヤツ」と言われても仕方ないですが…

それは「そういった状況下で変になってしまった」だけかと思います。

実際に白鳥翔(本人)も山本に嫌がらせを受けた際に「気が変になってしまった」シーンがありました。

しかし、個人的な意見としては「山本は気が変なやつではなかった」でしょう。

普段はむしろ至極まっとうな奴だったのでは?と推測します。

理由はやはり「城戸明」の存在ですよね。

城戸は山本の書いた小説を「無料で」清書してやると持ち掛けますし、

小説を無くしたときの落胆ぶりは本気の反省が伺えますし、

なくした小説を永島から『100万で返してやる』と言われたときは『100万で友情が取り戻せるなんて安いもんだ』と100万集めちゃいますし。

こんな聖人がつるむ相手が狂ってるわけないですから。

なので「山本安雄はプレッシャーでノイローゼでおかしくなってしまった」というのが個人的な見解です。

えー、逆に言えば。

「自分はまともだ」と思っている我々も、一歩間違えれば「狂気」の闇に包みこまれてしまう。

えー、そういうことかもしれません…

人間って、怖いものですね・・・

古畑任三郎でした。


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