君、そんなに喋れるやつだったんだね。
一風変わった語り手と、なんだか難しすぎる話が新鮮な話題作。
朝井リョウさんの小説『生殖記』を読みました。
こちらは2025年の「本屋大賞」にノミネートされた作品で、紀伊國屋書店で働く全スタッフからの推薦で選ばれる「キノベス!」って企画で大賞をとったそうです。
率直な感想を言わせていただくと、
「大賞とか話題作になる理由はわかるけど、そんなにおもしろくはない」
って感じでした。そもそもおもしろさに重きを置いてない「考えさせられる系」のお話だったとは思いますが…
これはこの小説に「しっくりきた人」と「しっくりこなかった人」の差なのでしょう。
この記事では、“しっくりこなかった側”の私が、その理由を書いていきます。
『生殖記』感想
しっくりこなかったのは事実ですが、本を読んで思うところがたくさんあったのも事実です。
ということで順に書いていきます。
生殖器の生殖記
まず、ちんちんが喋ってる。
これは最高にいいですよね、しかも頭が良いときている。
あくまで人間の身体についている1つの機能として喋っているのも良かったです。聞いていてめちゃくちゃ楽しかったですしね。
これが変に下ネタとか言いだしてたら…なんか違ったと思います。
ただ、アソコが「人間」という生物に対してひたすら喋ってるのはおもしろかったんですが、
途中で飽きました。
正確には本の三分の一いくまでには、かなり飽きましたね。これは最初のインパクトの高さゆえでしょう。
あとはシンプルに話についていけない。
すごく難しいんですよ、ちんちんが頭が良すぎて。
言わんとしようとしていることはなんとなくわかりますが、いかんせん人間を一個体として話したり、そこに現代の悩みとか、それにおける選択肢とか…
ていうか割とショックですよね、勉強しなくても自分のちんちんがこんなに頭が良かったら。
TOEICとか代わりに受講してほしくなりますよね。
あ、でもそうすると試験会場でズボン脱いでちんちん出さないといけなくなりますからね。
替え玉受験してるのバレバレですからね。
ヤフーニュースとか載っちゃいますよね。
尚成
今回の主人公であった尚成さん、30代。
自分が「異性愛個体」ではなく「同性愛個体」ということで子供の頃から傷つけられ、それにより世の中に対してシャットダウンしてきた、という男性です。
このことについては、こんなブログで扱っていい内容でもないと言いますか、私自身の知識も乏しく言えることがないので別の部分での感想となりますが・・・
尚成のこと全然好きになれなかったんですよね。
いや、本を通して彼が世界と自分を切り離して生きていることはわかりましたよ。
彼がそうしたくなる気持ちも…自分は当事者じゃないから共感まではできませんが、理解できる気もします。
好きになれなかった理由
ただ、同期の女性「樹」が公園で彼氏とのあり方について相談するシーン。樹はいろいろ普段話ずらいことも腹を割って話してくれていますが・・・
「早く帰りたい」とか、それは違くないですかね?
そりゃ自分と根本から違う、って思っている相手なら、相手が何を言っても響かないし興味ないのもわかりますよ。
そりゃ上司のおっさんからの子育ての苦悩とか、「やばいなぁ今期の売り上げが5億しかいかない」とか笑顔でぼやいている起業した若手社長の話とか。
そんなもん付き合いで聞いてる側からしたら「早く帰りたい」になることだって普通にあるんですけど。世の中には。
でも尚成は同期として、それ以上に友人としてふるまってるんですよね?
友達の話に対して何も聞かず「早く帰りたい」はシンプルに性格悪いと思いますよ、私は。
だったら友人のフリなんてしてあげるなと思ってしまうワケです。自分がコレされたらショックですからね。
確かに世の中には「空気」ってもんが存在しますし、友達じゃなくても友達のフリしたり、断るのも気まずいから誘いに乗ったり、言いたいこともあえて言わずに我慢したり。
そりゃありますよ、誰だって。
ただ本を読んでる第三者からしたら両者が見えてしまうから…自分が「樹」だったら嫌だなぁと感じたわけです。
でもそれが問題なのかも
ただこうやって書いてますが。
もしかしたらこれが尚成の思う「異性愛個体が持つ無意識な特権意識」なのかもしれません。
樹が相談している内容も無意識な特権意識からくる相談で、尚成の心の奥底では「そんなことで相談するなよ」ぐらいに思ってたのかもしれません。
ただそれを言われてしまうと・・・もうどうしようもないですよね。
無意識で感じてしまっていることがあり、それを気にする人もいて、でも「気にしている」ということは「空気」があるから言えなくて。だから他者はそれをなんとか感じ取る必要があるけど、それこそ人によって違うから正解はない。
ホントどうしたらいいんですかね?
しっくりこねぇ。
これを一言でまとめたら『多様性だからね』ってことなんでしょうか?
でもそれこそ、著者が描きたかった“世界の複雑さ”なのかもしれません。
これは考えるよりも専門的な知識というか、理解している人に話を聞くのが一番のような気持ちもします。
ということで後日、自分のちんちんに聞いてみますね。
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