裏切り者の中に殺人鬼がいる？
登場人物のほとんどが「復讐者」という異色さながら、かなりリアルな状況と心情が渦巻くミステリ小説『風神館の殺人』を読みました。
一言でいうなら「おもしろい」です。
ですがこの「おもしろさ」は「面白かったからみんなにオススメしたい！」とはちょっと違う意味での面白さ。
しいて言うならこれは・・・
「読書のおもしろさ」
この本の中にいたら自分はどうするか。そんなことを自然と考えてしまう「話の引き込み」と「状況」が最高に好みな一冊でした。
『風神館の殺人』ネタバレで感想
特に盛り上がりはないんです。
犯人が明らかになった瞬間、思考がストップするような『十角館の殺人
』ほどの衝撃があるわけでもない。
読み終わった後、絶句してしまうような『ルビンの壺が割れた』ほどの意外性もない。
伏線を回収しまくって全部をつなげてくる『フラッガーの方程式』ほどの巧さもない。
それなのに読んだ後の満足感がハンパない。
素直に「読書っておもしろいなぁ」と思わせてくれました。それほど個人的には好みの小説でした。
ということで、個人的に小説の感想を「良かったところ３選」という形で書きます。
新しいクローズドサークル
ミステリ小説と言えばおなじみの「クローズドサークル」。
閉ざされた空間のこと。脱出不能で、外部との連絡も取れず、孤立してしまった状態のことをいう。
スキーに行った大学生サークルのメンバーがコテージに閉じ込められたり、
山奥にそびえたつ屋敷にきた訳アリ人間たちが吊り橋を落とされて逃げ場を失ったり、
もう「金田一少年の事件簿」で死ぬほど見たよ！と言いたくなる、ミステリ界のアルアル現象です。
今回の『風神館の殺人』もクローズドサークルでしたが、
おもしろいのが「閉ざされていない」ところ。
別に建物を出たければ出れるし、外部との連絡手段もある。
なのに殺人事件が起きても「誰も建物から出ない」し「誰も警察を呼ばない」。
それは全員が殺人の共犯者だから、という異色な設定だからです。
これが斬新すぎる。
感情移入しやすい登場人物
ミステリ小説と言えば、クローズドサークルぐらいアルアルなのが・・・
探偵と警察の推理ショーです。
事件が発生したら警察を呼ぶのは当然ですし、警察が解けない事件をちょっと変わった探偵が出てきて解決するのもよくある光景ですね。
大体は【事件は解けないけど傲慢な警察】が登場し、それに対し「いや、犯人は別の人さ！」と探偵、もしくは探偵気取りの頭のいいキャラが解決します。
もう「名探偵コナン」で死ぬほど見たよ！と声が出ちゃうやつですね。
しかし今回の『風神館の殺人』。先ほども書いた通り、全員が犯罪を犯した「共犯」なので警察を呼べない。
なので警察も探偵も出てこないんです。
そして登場人物はみんな主婦や学生、サラリーマンに女子大生など、一般人ともいえるキャラクター達。
これが感情移入しやすくて良かったですね。
もちろん、ミステリ小説好きなので警察や探偵の活躍も大好きなのですが・・・
どちらが感情移入できるかと言ったら、やはり自分と近しいキャラクターのほうができますね。
なので今回の小説は、
「もし自分も復讐者としてこの中にいたらどういう行動とるだろう…」
と自然に考えることができてのめりこみやすかったです。
殺すテンポが良すぎる
殺されていくテンポが良すぎて焦りました。
先ほど「登場人物が一般人なので感情移入しやすい」と書きましたが、そんな「一般人」に反比例して人がポンポコ殺されていきます。
10人しかいないのに、ちょっとした休憩時間で2人も殺されてたのは衝撃的でした。
これ、登場人物は「伝説の猟奇的殺人犯」とかじゃなくて、主婦とかサラリーマンたちの話ですよ？
特に最後のほうなんて、主要人物が2人ぐらい普通のテンションでパパッと殺されましたからね。
テラフォーマズかな？
なのでクローズドサークルという展開次第では飽きやすくなってしまう設定を飽きさせないテンポの良さが良かったです。
ただタイトルは気になる
ただし、本のタイトルにもある「風神館」。
これにはちょっとガッカリでした。
「十角館」「黒死館」「紅蓮館」など。ミステリ小説には「館もの」というのが存在します。
このような「館もの」のミステリが好きな私のような人間としては、読む前になんとなく
「実は最初の殺人は風神館で起きたんじゃない、あれは雷神館だったんだ！」
みたいな展開が来るんだろうなぁ、と予想していました。
が…まったく「風神」要素がないんですね。
この小説は元々「崖の上で踊る」というタイトルでしたが、それが「風神館の殺人」というタイトルに改修されました。
それなのに風神要素もなく、「風を使ったトリック」なんてものもでてきません…
明らかに「○○館の殺人にしたほうが売れそうだよね」って言っている出版社のたくらみが聞こえてきそうでしたね。
個人的には何かしら「風神館」としての特徴が欲しかったです…
例えば…
家具が吹っ飛ぶぐらいエアコンの風力が強すぎ、とか。
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