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小説『魔球』感想|いろんな意味でストンと落ちた、まさに魔球な野球ミステリ

小説『魔球』感想|いろんな意味でストンと落ちた、まさに魔球な野球ミステリ
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この本は、魔球です。

東野圭吾なんて小説を読む人はみんな知ってる人だと思いますし、本を読まない人でも福山雅治の「ガリレオ」にて【原作 東野圭吾】という言葉を聞いたことがあるでしょう。

そんな東野圭吾作品で秀作と呼ばれていた『魔球』を読みましたが…

一言で言うと…とりあえず地味だったな、と。

どこかの名探偵が活躍するわけでもないし、絶海の孤島に閉じ込められていたわけでもないし、人をコロすことのできる魔球を投げられる念能力者がでてきたわけでもない。

ただ、「地味=つまらない」というわけではないことは、知っています。『魔球』はまさにそれを表す一冊でした。

世間的にも「少年の熱意に感動した」って声も多いみたいですね・・・

って皆さん、本当にそうですか?

ただ、それに対してちょっと言いたいことはありますけどね、私は。

これ以降はネタバレを含みます。ご注意ください。



『魔球』感想

「この小説、ほかに人にオススメできる?」

そう言われたら『うーん、わかりません』と言っちゃいそうな小説でしたね。

さっきも書きましたが、とにかく地味といいますか。救いもないというか…ドキドキもしないしビックリもしない。清々しい気持ちになることもないし、絶望で本を閉じたくなる、ってこともない。

なのでサスペンスやミステリーが好きな人には物足りないだろうし…

高校野球の清々しさを求めてる人には全然「熱闘甲子園」みたいな熱さはないし…

ただし。それが逆に「人間」というものにフォーカスできてる作品なんですよね。

この『魔球』という小説の一番の面白みは「人間の人間性」でした。

東野圭吾の小説『魔球』感想|高校野球ミステリー

その中でやはり一番は天才ピッチャーの「須田武士」ですね。

長身で、ストイックで、野球の天才で、甲子園出場して、父親は蒸発して、母親は自殺して、親戚に引き取られて、貧乏で、昼休みは体育館横の桜の木の下で寝ころんじゃう・・・

主人公要素たっぷりの、究極の主人公でしたね。

正確には彼の弟である須田勇樹が主人公にあたるのかもしれませんが・・・まあストーリーの中心にいたのは確実に「須田武士」でしょう。

言ってみたら今回の事件はすべて、この「須田武士の人間性」によって起こされた事件でした。

彼は自分の産みの親の形見をずっと持ち続け、育ての親を楽させるためにプロ野球選手になることを目指す青年で。

一方、その信念の邪魔になる者には危害を与え、必要な人間は犯罪を犯しても利用しようとする、そんな一面もありました。

だから読む人の見方によって、結構彼への評価って変わると思うんですよね。

この本に対する他の方のレビューを読ませてもらうと・・・

・主人公の野球にかける強い信念、そして家族への愛・・・彼の幸せを願わずにはいられない気持ちになりました。

・彼の動機や家族にたいする思いなどがほんとに切ないしかっこいいなーと思いました。

と、須田武士に対して好意的に感じている人が多かったです。

確かに、彼の家族を思う気持ちは本物でしたし、自分で命を絶つと決めた後もお金を残そうとするなど、高校生とは思えない立派なところもありました。

ラストも須田勇樹は幸せになったようですし、母親も健在。

勇樹は兄から言われた言いつけを守って母親を守ったんだと思うと、須田武士の行動は正しかったように思いますよね。

私もそう感じていました。地味だけど良い作品だったな、と。

切なく悲しいけど、最後はちょっと心の温まる。そんな一冊だったな、と。

って思ってたんだけどね。

彼、犬と友人殺してるんですよね。




いや、ちょっと冷静になりましょう。

彼が天才で、家族思いで、貧乏で・・・なにより昼休みは桜の木の下で寝ころんじゃうからすごくカッコいい奴と思ってましたが…彼は友人と犬を殺してるんですよ。

しかもその殺した理由が「約束を守らなかったから」。

須田の中で「プロ野球」というのは人生をかけるぐらい大切なものだったのはわかりますよ。

でもそれを「他人」が理解するのはなかなか難しいと思いますし、ましてや北岡くんは高校生ですよ?

そんな彼が「須田を心配して先生に怪我のことを伝える」ってことに対して、その報復が【北岡くんの愛犬を目の前で殺す】って。

お前、なかなかのサイコパスじゃないか。

須田武士が少年野球をやっていた時の話も、過去の話でスルーしてましたが、あれもなかなかですよ。

須田が「内緒にしていてくれ」って言ったことを話してしまった少年への報復が【宝物であるグローブをズタズタにする】って。

君の性格だいぶ曲がってるよ?スライダーかな?

ということで個人的にはこの印象が強すぎました。

北岡くんの母親は「狂ったように泣け叫んでいた」ようですし、グローブをズタズタにされた少年も豊かではなかったようです。

大切な息子が犬と一緒に殺された、なんていったら親としては立ち直れないでしょうし、ズタズタにされたグローブだってご両親が息子のために一生懸命働いて買ったものですよ?

これを平気でやっちゃって、それに対して後悔も謝罪もないって。

人間としては終わってます。

だからこその「須田武士の人間性」なんですけどね。良いところも悪いところもある。まさに「人間」って感じでおもしろかったです。

まあ個人的な意見でいえば、やっぱり好きにはなれなかったですね。

正確に言えば、良い小説だとは思いましたが、内容的には誰も救われない嫌いな話だったと思います。

須田武士に対しては評価が急降下です。

あれ?この須田武士に対する評価がストンと落ちるさま・・・

まさかタイトル『魔球』の本当の意味ってこれ?




こちらもぜひ読んでください。

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