ずっと置いてけぼりを食らって、おもしろいと思えませんでした。
『そして誰も死ななかった』の作者である白井智之さんの世界観は非常に独特で有名です。
あらすじの時点での「おもしろそう」の引きが強すぎるんですよね。以前読んだ『食料難だから人間のクローンを作って食おうぜ』って感じの小説は、文字通り独特過ぎました。
今回の『そして誰も死ななかった』も独特で、グイグイ引き込まれました。
ただ、残念ながら結果おもしろいと思えませんでした。
ということで「おもしろいと思えなかった理由3選」です。
『そして誰も死ななかった』感想
興味がわかなすぎる
今回の小説『そして誰も死ななかった』の大きな謎が2つありました。
それらが小説のメインテーマとなっています。それが・・・
・誰が5人を殺したのか
・どうやって殺したのか
ってことでした。
条島という島で5人の推理作家が殺されるが、ある理由で5人は生き返る。
そして犯人は誰なのか?どうやって殺したのか?
これらの謎を解き明かすストーリーでした。
確かに、普通のミステリであるなら、5人しかいないのに5人死んだのなら「6人目は誰なんだ?」って考えるのは普通です。
しかし今回は死体が生き返ってしまうので「自分たちを殺したのはこの5人の中で誰なんだ?」ってことになるわけですね。
これが全然興味わかないんですよね。
問題はそこじゃないだろ。
いや、普通に考えて「なぜ生き返ったのか」のほうが気になりませんか?
残念ながら世の中に「殺人事件」はいくつもありますが、「死んだ人間が生き返る」はありません。
そんなの「ドラゴンボール」と「魁!男塾」だけです。
いや、それは殺された本人たちは知りたいと思うでしょう。いくら痛くないといっても硫酸で肌を焼かれたなんて、女の子にとっては最悪ですし。
でも読んでる側としては『まあ生き返ったからいいんじゃね?』と話に乗っていけません。
それは「どうやって殺したのか」という疑問も同じです。
いや、方法とか重要ですか?
誰も「自分が生き返ったこと」に関心がなんですね。
というより「自分を受け入れる」のが早すぎる。自己肯定感が高めなのかな?
読んでいる側からしたら、人間が生き返った時点で「なぜ生き返ることができるのか?」のほうが絶対に興味あると思うんですよ。
どんなトリックがあるのか?
これは幻覚なのか?
もしや死後の世界の話なのか?
そしてその理由が「体の中にうごめく寄生虫に生かされていた」のオチでも十分におもしろいし、なにより恐ろしいと思うんですよね。
それなのに「生き返る理由(寄生虫)」は簡単に明らかになり、「誰が殺した」「どうやって殺した」かはかなり長々と説明が入ります。
これが残念でした。
これが逆だったらサンデーモーニングの張本勲みたいに「あっぱれ!」あげちゃうところだったんですがね。
気持ち悪すぎる
白井さんの作品は「なんかいろいろと気持ち悪い」がデフォルトです。
今回もしっかりと「なんかいろいろと気持ち悪い」のですが、本気で気持ち悪い描写がこちらです。
饂飩は老人に連れられ、街はずれのあばら家へ向かった。そこで饂飩は野良犬みたいな臭いのする老人たちに取り押さえられ、蛞蝓を大量に食わされた。彼らは子どもの腹に蛞蝓が何匹入るかを賭けていた。
白井 智之. そして誰も死ななかった (角川文庫) (p.192)
いや、なんですか、この文章。
もう「誰が犯人」とかどうでもよくなっちゃったよ。
地獄すぎる。
いま自分で文字を打っていても嫌悪感がすごい。地獄。何を食っていればこんなストーリーを思いつけるのか。
しかもこの地獄。サラッと出てきます。
5人いる推理作家のうち、1人の人物紹介です。
そんなあってもなくてもいいところで、こんな地獄出す必要あります?
結末が投げっぱなしすぎる
先ほど「興味がわかない」と書かせていただきましたが、もちろん興味がわいたところもたくさんあります。
例えば…
・なぜ晴夏は作家と寝たがるのか?
・なぜ晴夏は好きになった人にプレゼントを渡すのか?
・晴夏を死なせる原因を作った桶本はどうなっているのか?
・寄生された人間が死ぬ間際に「水をくれ」という理由は?
1分ぐらい考えてこんだけ出てきました。時間をかければもっと出てくるはずです。
しかしこれらの謎はほぼ謎のまま。推測しかできない状況です。
個人的には「誰がどうやって殺した」よりもずっと気になります。なので本の中で繰り広げられる長々とした推理合戦に全然入っていけませんでした。
投げっぱなしでも考察できる小説なら楽しいんですが…世界観ぶっ飛びすぎて考察も難しい・・・
これには張本勲も言いますよ、「喝!」って。
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