この本、危険です。
電車内で読んだらニヤニヤしすぎて『キモっ』って言われます。
笑えるんですよ。「どの辺が?」と聞かれるとすぐには答えられないんですが、とにかく小説全体に笑える雰囲気が漂ってるんです。
それでいてしっかりストーリーのうまさがありますので、そんなのおもしろくないわけない。
内容としては・・・正直に言って軽いです。
基本短編なのですぐに1つのパートが読み終わる。フィクションベースのいわゆる「リアルじゃないお話」なので心に響きにくい。
なのに読み終わった後の『ああ、おもしろかった』感はハンパなかったです。
さすが浅倉秋成。
ビバ浅倉秋成。
いや、浅倉ビバ成。
『失恋の準備をお願いします』感想
『失恋の準備をお願いします』は5つの短編が合わさった作品でしたので、1つ1つの感想です。
上京間近のウィッチクラフト
いきなりめちゃくちゃおもしろい。
素敵な男子に告られたけど、長距離恋愛はうまくいかないと不安になって、だったら最初から付き合うのをやめようとする女の子。
だから「自分は魔法使いだから付き合えない」と噓をつく…
まあのっけから「魔法使いになりきって男の子を振る」って内容だったので、合わない人はここで合わないとなっているかもしれませんが・・・
バチクソおもしろかったです。
魔法少女のアニメを見て「自分も魔法使いなんで」って言っちゃうところはリアル系の小説を読むことが多い自分としては『んなアホな』な展開なんですが…それを許せちゃう登場人物の可愛さがあるんですよね。
最初に魔法という名の八百長トリックを見せておいて、もう一回見せてと言われたシーン。
「そ、それはちょっと厳しいかな?今日はちょっともう、魔法石が足りなくて」
「・・・あ、割とそんなレアガチャみたいな感じなんだね」
引用:「失恋の準備をお願いします」浅倉秋成
こんなん笑うじゃないですか。
魔法界には人間と付き合っちゃいけないという鉄の掟がある、と嘘をつくシーン。
「鉄の掟を破ると、どんな罰が待ってるの?」
考えてなかった「あぁと、その…ものすごく恐ろしい罰で…」
「どんな?」
「か、簡単に言っちゃうと─」
駄目だ、いいアイデアが思いつかない。「だ、脱会リンチだね」
「脱会リンチ?!ほとんどヤンキーじゃないか!」
引用:「失恋の準備をお願いします」浅倉秋成
こんなんバチクソ笑うじゃないですか。
騙すほうもアレなのに、騙されるほうもアレという。この感じがすごい好きでした。
「魔法界に帰らないと」と噓をつく女の子に対し、純粋な気持ちで「役人めぇ…!」ってブチぎれるやつなんて絶対いい奴じゃないですか。
真偽不明のフラーテーション
おもしろかったけど・・・この短編集の中では一番おとなしい作品でしたね。
高校生カップルと、ウソを見抜く市松人形。
コメディで固めているものの、ちゃんとミステリ要素もあり、その伏線もしっかり回収する。
最初の短編よりはマイルドでしたが、この短編もおもしろかったですね…
まだ本は序盤でしたが、このあたりでもうすでに著者の浅倉秋成さんを浅倉ビバ成って呼んでましたから。
不可抗力のレディキラー
この作品もちょっと乗れない短編。
モテすぎちゃう男子と、和菓子屋の非モテ女子。
高校生の男の子が「モテて困る」なんて、コメディでもムカつくじゃないですか。何にもない会社員からしたら嫉妬で狂いそうになるじゃないですか。
「魔法使いの振りしちゃう」とか「会社の役員をラリアットとして昇格しちゃう」は『んなアホな』って感じで楽しめるからいいんです。
ですが、「女にモテすぎて困っちゃう」だと、嫉妬ゆえに『なんだァ?てめェ……』ってなっちゃうので。
寡黙少女のオフェンスレポート
主人公が小学生でこんな笑える小説ありますか?
この作品には何か文学賞を与えてほしい。そのぐらいおもしろかったです。
クラスのものをついつい盗んじゃう女の子と、それを止めようとする男の子。
「でも、お父さんはよく『欲しいのなら盗め』って言ってる」
僕は驚いた。「本当にお父さんはそんなこと言ってるの?」
「お父さんはお弟子さんたちが『僕にも教えてください』って言うと、『すぐに答えを欲しがるんじゃねぇ。ほしかったらまず盗め』とよく言ってる」
「技術をね!!」
引用:「失恋の準備をお願いします」浅倉秋成
いや、だからおもしろすぎるって。
ビバ!浅倉秋成…でもなく、浅倉ビバ成でもなく・・・
ビバ倉ビバ成ですやん、こんなの。
教室でリコーダーが盗まれたところも笑いました。
女の子のリコーダーが盗まれてしまい、犯人探しをしている最中に・・・
犯人の女の子が「ピーピーピーヒョロー」って無表情でリコーダー吹いてる。
吹き出しましたよね、リコーダーだけに。
勤勉社員のアウトレイジ
いやもうタイトルで笑わせに来てます。
アウトレイジって「非道な行為」ですからね。
仕事が辞められないサラリーマン。なんだかんだ一番好きな短編でした。会社を辞めるために上司をラリアットって。
そんなの絶対におもしろいじゃないですか。
これが「殴る」「蹴る」だと微妙なんですよね。暴力感が出てしまって笑えない。
かといってここで「ドロップキック」とか言っちゃうと笑いを取りに来ている感じが強すぎて逆に笑えない。
そんな中の「ラリアット」。絶妙ですよね。暴力感も薄いし、誰でもできる容易さがある。
何よりラリアットって・・・してるほうも、喰らってるほうも、なんかシュールだし。
失恋覚悟のラウンドアバウト
最後は今までのすべての話が一緒になる「ドラクエ4」システムでした。
こういった「短編集だと思ってたら、実は全部つながってました」といった作品は大好きです。
全ての話をくっつけてすべての伏線を回収するという華麗なストーリー。
普通に考えたらあまりにも「ご都合主義」のようにも見えますが、それはそれで楽しかったです。
浅倉秋成先生…じゃなくて、ビバ倉ビバ成先生。
先生の出している本は結構読んできていますが、ビバ倉ビバ成先生のオススメランキングを作るとしたら、間違いなくトップ3に入っていると思います。
こんな本書いてくれて、本当にありがとうございました、
ビバ倉ビバビバ先生。
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